苦難のたび

2週間のDC出張から戻ってきました。精神的にくたびれ、白髪が増えた(ように感じる)旅でした...。まず最初にアメリカに辿り着くところから多大な困難が待ち構えていた。


オフィス内の旅行会社に取ってもらったフライトはエチオピア航空アディスアベバ経由DC行き。直前まで仕事を片付けるのに職場でじたばたしていたものの、予定どおりナイロビ空港に到着。搭乗しようとしたところに、ゲート脇にあった売店の「世界共通SIMカード」の広告が目に留まる。世界80カ国以上で使える携帯用SIMカードで、ローカル通話なみの安い値段で通話できると謳っている。仕事の都合上、アメリカでの通信手段を確保する必要があったので、売店のお姉ちゃんに確認。

「このカード、アメリカで使える?」
アメリカでもイギリスでも使えるわよ」
「この携帯に入れて使える?サファリコム(通信会社)に聞いたら、この機種はシムロックはかかってないけど、アメリカじゃ使えないって言われたんだけど...」
「シムロックかかってなかったら、機種に関わらず使えるわよ!」
「本当〜?」
「本当本当!」

やや疑心暗鬼ながら、購入。いざ、アディスアベバへ。


アディスアベバで乗継便のチェックインをしようとしたら、「あなたと同名の名前がアメリカ政府のリストに載っているため、確認をしないと発券できません」と言われる。ええ、それってブラックリストやろ。日本人でテロリスト容疑の人なんかがいるのか...??てか、これからアメリカに出張するためにそんなこと言われるのはたまらんと思いながら待つこと15分、無事搭乗券を入手。ここまでは、ネタで済むレベルだった。


アディスアベバ空港はアフリカのハブ空港と言われる割には、非常に簡素な作りであった。搭乗ゲートで待ち、いよいよ搭乗という段階になって、ゲートの係員に止められる。「お前、ビザ持ってるか?」「日本のパスポートはビザ要らないよ」「じゃあエスタ持ってるか?」「エスタ??」


やり取りの末に判明したのは、日本や欧州などのビザ不要の国からアメリカに入国する際には、事前にESTA(入国審査の電子政府機関)でビザ免除のオンライン申請をして、証明書(ESTA authorization)を取っていないといけないらしい。そんなこと、旅行会社からなんにも聞いてない!いや、最近のアメリカイミグレ事情では常識なのかもしらんが、思えば、アメリカには留学以来3年近く行ってなかった(前職での出張はアジアとヨーロッパばかりだったし)。出張前は忙しくてビザのことにまで頭が回らなかったし、そもそもナイロビやアディスのチェックインカウンタで確認してくれよ。


と言ってもあとの祭り、見事に乗車拒否をされてしまう。いやそんな、ここで止められても困る。そもそも荷物は預けてしまってなにも持ってない。あーだこーだとごねてみたものの、ESTAがないと駄目なものは駄目とつれない対応。いよいよ仕方ないので、「乗れないなら預けた荷物を出してくれ」と言うが「あと20分で出発だ。もう遅い。」いや、遅いのはあんたがほかの客が全部通過するまで待たせたからじゃんかー。


というわけで、荷物だけが持ち主を残してアメリカに旅立ってしまい、私は呆然と空港に取り残される。ダメージの大きさに混乱しつつ、そのESTAとやらを取得しないと始まらない。運悪くラップトップを持っていなかったため、空港のインターネットカフェに行くと、ちょうど直前にインターネット接続がダウンして繋がらないと。おーのー。時間は既に夜の23時近く、空港でネットができないんじゃどうしようもないと、インターネットができるホテルを探して一泊しようと考えた。


エチオピアに入国するのは初めてで、予定外だったので(そりゃそうだ)どこに行けばいいのかまるで見当がつかない。到着ゲートに幾つかホテルの案内カウンターがあろうと思って外に出て、無難そうな名の知れたホテルということで、ヒルトンやインターコンチネンタルホテルのカウンターにいくが、深夜のため誰もいない。途方に暮れていると、ホテルのスタッフらしき人がやってきた。

「飛行機を乗り過ごしちゃって、今日泊まりたいんだけど、部屋ある?ビジネスセンターって今の時間でも開いてる?」
「あーどうだろ。てか僕ヒルトンホテルのスタッフじゃないし。」
「ええ、ごめん、そうなの?」
「うん。でもホテル紹介できるよ。」
「…なんてホテル?」
「ハーモニーホテル。空港から3分、ビジネスセンターも開いてるし、フィットネスやサウナ、ジムもあるよ。」
「一泊いくら?」
「145ドル」


しばし躊躇したものの、ホテルのカウンターは皆閉まっていてほかに当てもなく、彼の説明振りと値段からそんなにおかしなところでもなさそうだ、ええい乗っかろうとお願いすることに。まさに渡りに船、ではなくカモがネギをしょってる?


このまま誘拐されたらどうすんべとドキドキしながら手配の車に乗ってホテルへ。思えば前も南アフリカでこんなことがあった。あっちのほうが治安が悪い分危険度が高い。着いたところは普通に立派なホテルであった。ほっ。


チェックインするも、部屋で休むまもなくビジネスセンターへ。ESTAの証明を取るのにどれだけかかるのか。しかも今日は土曜日だ。2営業日くらいかかってもおかしくないんじゃないか。それだったら、一旦ナイロビに戻るか。。などなどと考えながら、オンライン申請をすると、なんと、5分で証明が取れてしまった。…それだったら、空港のチェックインカウンタで早めに教えてくれれば、乗れたんじゃないかよーー。


次に、代わりのフライトを探す。エチオピア航空は一日一便で、到着するのが丸一日遅れてしまう。見ると、ユナイテッドエアラインで夜中の3時に出る便があった。現在深夜0時。いろいろ迷った末、もう一度空港に戻ってチケットが買えるか交渉することにした。結局、ホテルはチェックインしたものの、事情を話してキャンセル。当然嫌な顔はされたが、タクシー呼んでくれたり両替してくれたり、良い人たちであった。感謝。


空港に戻ってまずはエチオピア航空に話してみるが、チケットはオフィスが開く明日の朝になってからしか買えないと。次にユナイテッドへ。まだチェックインカウンタが開いていなかったが、スタッフに事情を話すと、ちょっと調べてみるといって奥に消えていった。すがる思いで待つこと数分、戻ってきたスタッフが、「席に空きはあるけど、ちょっと高すぎるんじゃないかなー」「幾ら?」「片道で1250ドル」


さて、事前に教えてくれなかった旅行会社にクレームをつけるにしても、ケニアの会社だし、追加でかかったお金は出さない(出せない)だろう。職場の出張経費で落とせるか。微妙。自分で1250ドルの負担はきついが、月曜からの仕事に遅れてしまうし、着の身着のままでここで一日無為に過ごすのも辛い。ええい、「買うわ!」


クレジットカードで支払いを済ませ、搭乗券を手にしたときには、涙が出る思いだった。この時点で既に夜中1時半。体力的にも精神的にも疲れ果てていた。あとは搭乗まで待つのみ。


ところが搭乗ゲートがめちゃくちゃ寒かった。長袖の上着は持っていたものの、それではとても間に合わないくらい寒い。周りを見ると、なんと皆コートを来ている。どういうことだ。あまりの寒さに近くの係員にだめもとで聞いてみる。「ねえ、めちゃくちゃ寒いんだけど、毛布かなんか貸してくれない?」「あー、いつもはあるんだけどね、今ちょうどないんだよ」ほんとかよー。夜中で店も閉まり、コーヒーなど暖を取れるものもなし。ようやく搭乗する頃には心底冷え切って歯が噛み合わなくなっていた(その後、隣の席からくすねた飛行機の毛布3枚にくるまって体力回復に努めた)。


で、新しいフライトは、アンマンで給油したのちロンドンへ。アメリカにいくはずがなぜかイギリスに。ということで、ネタついでに同僚へのお土産を買う(←だいぶ余裕が出てきた)。ところが、カードで支払おうとしたら、このカードは使えないといわれる。「ええ、さっきエチオピアでは使えたんだけど?」「うーん、引き落としが拒否されるのよ。他のカード持ってない?」


あー、シティバンクがクレジットカード止めたのね...(アメリカのカードはすぐ止まる)。エチオピアで取引記録があって、次にイギリスで使おうとしたから、怪しいと思ったのだろう。しかし、止めるの早すぎだって。踏んだり蹴ったり。早速購入したばかりのシムカードでアメリカに電話をし(使えた)、ホテルに遅れるとの連絡を入れたり、今夜会う予定だった友人にキャンセルのお知らせ。


そんなこんなでやっとの思いでDCに辿り着いたのは夜の8時。丸2日間かけて移動したわけだ。飛行機に乗るのはそんなに苦じゃないほうだが、さすがに今回はぐったり。


で、残る一番の心配は先に旅立ってしまった荷物の引き取りだ。今回は2週間の滞在だし、あの荷物がないと、さすがにきつい。すがる思いでロストバゲージカウンタに行くと、荷物は航空会社毎に管理してるから、エチオピア航空のオフィスにいきなさいと言われる。で、エチオピア航空のオフィスに行ったら、案の定既に閉まっていた(涙)。


必死で探し回って見つけたエチオピア航空のスタッフによると、彼はオフィスの鍵を持っておらず、オフィスが開くのは明日の朝の6時らしい。そもそもちゃんとオフィスで保管してくれているのだろうか。エチオピア航空にそんな管理能力期待できるのか。絶望感にうちひしがれながら、そのまま身一つでホテルへ。ちなみに、例のシムカードは、アメリカでは使えなかった(涙涙)。


次の日の朝、朝9時からの会議に間に合うように6時半に空港に行くも、オフィスは閉まったまま。周りの航空会社のスタッフに、「えー、開くのは9時じゃない?」と言われ、もはや悟りの心境。幸いだったのは、7時頃にスタッフが一人来てオフィスを開けてくれ、しかも荷物は無事にそこにあったこと。中を確認するが、特に取られた形跡はなし。おお。


そのまま急いでホテルに戻り、3日間着っぱなしの服を脱ぎ捨て、ようやくなんとか体裁を整えて仕事に向かったのでした。これが2週間出張の始まり。読むだけで疲れるね。そりゃ白髪も増えよう。