Indigenous knowledge

体調は相変わらず良くないですが、出張中の任務はなんとか無事終えられたので、ほっとしました。明日ナイロビに戻ります。


昨日に引き続きスタッフから聞き取り。コミュニティと直接やりとりをするフィールドオフィサーの話はやっぱり圧倒的におもしろい。agroforestryやintegrated ecosystem managementと称して、環境に配慮した農業や土地利用技術の適用と集落開発を組み合わせたプロジェクトなのだが、その土地、その民族の文化・風習を知った上で、その文化・風習に徐々に変化を加えることが何より難しいし、しかし成功の鍵なのだと。


例えば、この地域では、木を植えることが出来るのは土地を保有する男性だけで、女性は木を植えてはいけない。それどころか、誰かが死んだり悪いことが起きるとしてタブー視されている。また、土地は一家の長(父親)が所有するため、息子たちも老いた父親から譲り受けるまでは基本的に土地を持てない。さらに、一夫多妻制の家族制度において、第一夫人が農作物の植え付けをするまでは、第二夫人、第三夫人は植え付けをしてはいけない。第一夫人が植え付けをしないシーズンがあれば、そのシーズンは誰も農作物を育てられない。また、木の種類によっては、成長とともに一家に災いをもたらすとして、敷地に植えることが忌まれるものがある。一般的に、植栽には外来種が好まれ、原生種は好まれない(需要がないからマーケットもない)。などなど。


そうはいっても未亡人になったら誰が木を植えるんだ、災いの木を植えても悪いことが起こるばかりか、早く育って土壌の流出を防いでくれるじゃないか、原生種を植えれば多くの肥料もいらないし害虫にも強いだろう、といったように、実際にデモプロットで実証しながら、根気強くattitude changeをもたらしていく。


素晴らしいなと思う一方で、一歩間違えると文化の押し付けにもなりかねないリスクを伴う。その点、フィールドオフィサーもよく認識しており、土着の知識に教えられることが多々あり、トレーニングやキャパシティビルディングの名のもとの一方通行の意思伝達では決して実を結ばないこと、コミュニティ自身が自らの抱える問題を洗い出し、優先順位を決め、意思決定することの重要性を強調していた。


結局プロジェクトの一番の成果は、こうしてexpertiseが高められた人的資源(コミュニティ側とフィールドオフィサー側の双方)なのだなと思ったのでした。相手への敬意を常に忘れぬよう自分の肝に銘じつつ。


補足ですが、このプロジェクトのスタッフ(フィールドオフィサーを含め)はみな科学者なんですよね。土壌の専門家とか、家畜の専門家とか。こういう科学者がいてもいいよねえ。